ささまる血風帳

140字にまとめるのが苦手

朝の電車を乗車率100%超に至らしめる怪異、スーツ人間達についての一試論

先に断っておくと、僕は学問的な過程で悦び勇んで研究を重ね、人生で唯一遊ぶばかりを許された大学生活を研究室という紙の匂いしかしないドブ溝に捨て去った殊勝でいて哀れ、そしてその哀れさにすら気付かないド変態たちとは既に袂を分かっている。

仰々しいタイトルは所謂「クソデカ構文」と根源を同じくする男子学生的な虚しい誇張表現であり、朝の電車には怪異は居ないし、乗車率が100%を超えているのかどうかも正直知らない。正直隣接する人間の容積によって体感が変わるだけだと思う。あとは正気かってレベルで無理やり乗り込んでくるやつもいるので、押し込まれた乗客全員で反動を利用してそいつをガラス扉に叩きつけてやるという大立ち回りは毎朝全国の電車という舞台で飽きもせず演じられているであろう。現代の勧善懲悪劇、初期浄瑠璃の趣を匂わせる痛快さだ。

話があまりに逸れている。

そう言えば、ブログの更新頻度が云々、みたいなお決まりをなぞるのも疲れた。

僕は天地天明が認めるところの誠実な男なので、思ってもいないことは断じて口に出来ない。友人が間違えていることを言っていると思ったら正すし、美女が間違えていることを言っていると思ったら賛同する。美女が言っている時点で僕の意見は上書きされるからだ。何も矛盾はない。自由意志を持つ人間としては明確に矛盾しているが、論理展開に何ら矛盾はない。僕は理知的な男なのである。

話があまりにも逸れている。

つまり、ブログの間隔が空いたことに託け「次からは頻度上げますよ」と言わんばかりのポージングだけを取ってみせて、腹の中では「次の更新は来年であらふな」とほくそ笑んでいるような、そんな悪代官のような不誠実な真似はやめだということだ。次の更新は来年である。何が悪いのか。

ああ、僕の人生に彩りを!

書くことがないから仕方ないのである。書くことがないから、通勤電車に揺られながらこのような詭弁を弄し続けるくらいしか出来ないのだ。

――通勤電車!

一体全体どういうことか。あの藤井聡太名人と並べて日本の「双頭の龍」と称せられる傑物たる僕が本題を見失うとは。僕のこの試論により日本社会の暗澹たる闇が暴かれることを恐れる存在、つまり民衆を働き蟻の如く搾取し続ける邪智暴虐の腐敗議員の仕業に他ならない。

これは陰謀だ!

ツインヘッドドラゴンのかたわれがこんなことを喚いているうちに、将棋が強い方のツインヘッドドラゴンは今日も着々と勝ちを重ねて社会的な地位を盤石なものとしている。そのうち将棋が強くない方のツインヘッドドラゴンが腐り落ちて、真の龍王と成るのだろうか。

何歳になっても中二病は終わらない。子ども心を無くしていないと言って欲しい。人生という一方通行、墓場への急行電車の中でも僕は出来る限り降車を欠かさない。そんなことばかりをしているから遅刻する。

――急行電車!

もういいと思う。そろそろ本題に入るべきだ。しかし本題というのは話すべき題である、ということで、果たして話すべきかという観点において、ツインヘッドドラゴンの生態とその価値においては寸分も違わない。藤井聡太氏の名前が出るだけあっちの方がまだ価値があるかもしれない。今すぐにタイトルを「龍王誕生譚〜呪いの笹と満員電車〜」に変更すべきかもしれない。しかし今さらタイトルを変えたところで、ツインヘッドドラゴンについてこれ以上僕は語る言葉を持たない。ツインヘッドドラゴンなどおらんからである。

無駄なことばかりを書いたせいでもう電車は会社の最寄駅に到着せんとしている。「何言うてますのん」と車内アナウンスが呆れている。

致し方ないので、後半は帰りの電車で書こうと思う。今まさに電車に乗っているという臨場感、マスクを貫通するスメルを放つ僕の未来の姿、即ちおじさんへの憎悪を執筆エネルギーに変えてきたが、一旦はここで筆を休めようと思う。筆というか指だが。

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昼休みである。どう考えても定時内に終わるビジョンの見えない作業を殊勝に片付けているうちに定刻は過ぎ、どういうわけか十五分遅れの昼休みである。

毎朝業務開始の二十分前には出社し、休み時間を浪費し、定時後のよくわからない「休憩時間」というやつは三十分の無賃労働を強いてくる。ルール、制度、規範の敗北を感じざるを得ない。

ルールを守らない人間は膂力を失った猿である。即ち猿以下である。猿と同等の思考力であることを社会は求め、我らの正気を奪い、得体の知れないマージン、タダ働きで発生した利益をどこかに隠し、「フフン 君たちは猿だから分からないだらふ」と諭吉に火を灯して靴を探して見せるのだ。これは陰謀だ!

そろそろ太陽の下で陽に灼かれながら文を綴るのも疲れてきたので、やたらめったらクーラーの効いたオフィスに戻ろうと思う。未来の子どものも考えられぬ猿どもめ、恥を知るといい。猿でも自分の子どものことは慮る。

これは僕が上着を忘れたことの八つ当たりなどでは断じてないのだ。

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世の中には残業もなく、太陽の見える時間に会社を飛び出し、道行く人間を巻き込みながらさながらサンバカーニバルの如く闊歩し、煌めく繁華街に消えていく連中がいるという。そんなやつらはサンバを夢中に踊るあまり腰が引き締まり過ぎてポッキリ折れてしまえばいい。

当たり前のような顔をして2時間近くの残業をこなした後、酒くさい僕の未来の姿、すなわちおじさんがギャーギャーと電車で産声を上げているのを聞きながら、僕は表情をぴくりとも動かさずに電車の吊革の上の部分を掴んでいる。決して表情が死んでいるのではない。

僕は表情が豊かな男である。どれほど豊かかと言えば、僕が健やかに笑っていれば空は晴れやかだし、僕がムズカシイ顔をしていると空は雲で塞がっている。これは嘘ではない。僕は低気圧にすこぶる弱いからだ。

――電車の吊革!

そうである。気づいた頃にはこの文章の80%超が満員電車に何ら関係のないツインヘッドドラゴン奇譚と化していた。

こんなくだらないことを言っているうちに、いつの間にかマイスイートハウスの最寄り駅まで残り数刻というところである。本稿はある日の僕が出勤から帰宅までの時間で完成させるという厳格なルールの元で執筆されているため、残された時間は少ない。

それにしても、1時間に十数本は通過する電車を毎朝あれだけの人間が埋め尽くしていると思えば寒気がする。7時に起きて9時から21時まで働き、帰路に着く。そんな偉大な人間があれほど多いのに、その90%はおよそ裕福そうに見えない。頑張ってる人間はそれなりに幸せになって欲しいものである。僕含め。そういうわけで、僕は酒を飲む。酒を飲みながらうつらうつらと考える。この消えたマージンの在処は一体――、失礼。どうやら別車両に僕の命をつけ狙うヒットマンの姿があるらしい。これ以上は僕の身に危険が及ぶため、ツインヘッドドラゴンの正体についてはまたの機会に明かすことにしたい。

 

――断じて最寄駅が一緒の上司の姿を認めたわけではないのである。そちらの方が、政府のヒットマンよりよほど恐ろしいのだ。

かしこ