ささまる血風帳

140字にまとめるのが苦手

山月記

ささです。華の金曜日も終わって只今の時刻は17時01分。

今現在、今日自分に起きたイベントの一覧に「起床」しか登録されていないこの現状はかなり深刻なものだと言えると思う。ただちに何かしらの行動を起こさねばならない、そう思った僕はベッドから飛び跳ねるように起床し、半狂乱状態で玄関のドアを開き、風雨を押しのけながらアスファルトを四本脚で駆け抜け、辿り着いたデイリーヤマザキサーティワンアイスクリームのナッツフォーユーフレーバーを手に取り、怯える店員を前に血走った目で会計を済ませ、自宅で飢えた獣のように休日の残滓を貪った。思っていたよりもナッツがしっかりしていてお腹に溜まったぞ。

さて、もはや義務感の産物と言っても差し支えないのだが、手始めにブログを書こうと思う。今週の小説はかなりの高確率で休みです。

だって梅雨だからね。

 

昨日の金曜日、会社のデスクにまんじりともせず座っていた僕だったが、時計の長針が「1」の数字を指し示すなりすっくと立ち上がって、奇声を上げながら部屋を飛び出した。財布を忘れたことに気付き、はたまた奇声を上げながら部屋に戻る。もはや見慣れた風景だ、とでも言わんばかりに周囲の人間はパソコンの画面から目を離さない。お前らはずっとそうしていろ、と高らかに胸の中で叫んで再び部屋を飛び出した。エレベーターの「1」のボタンを高橋名人よろしく連打したが、なかなかエレベーターが来ないこと、そして華々しくランチに向かう同僚の淑女たちが後ろから迫ってきていることもあって、僕は転げ落ちるように十数階の階段を下ることにし、遂に忌々しい黒ビルからの脱出を為果せた。

週に五回働くというのは一体どうなのだろう。そんなことは仕事をしたい奇人がすればいいだけの話であって、一般的な感覚をもってすればそれは明らかに異常な行動である。7あるうちの5、というのはどう考えてもバランスが悪い。カレーライスだってあの狭い皿の上に1:1でよそわれているし、デリバリーピザですらハーフアンドハーフだ。他の部分が全部マルゲリータで、ごく一部だけが照り焼きのピザなど僕は見たことがない。ピザでもカレーライスでも出来る「バランスを取る」という基本的な美的感覚すらも欠落してしまった現代人の行く末が心配でならない。お前らピザ以下か。

そんなことを考えながら道行くビジネスマンに今にも噛み殺さんという鋭い視線を向けつつ、僕はずんずんと街を歩く。

週休2日などと言う俄には許しがたい悪習を定めた蛮神の子孫でも居るならば刺し殺してやろうかと思っていたが、あいにく人の肉よりもダシの効いたうどんの方が美味しいので、僕は券売機に300円を投入してかけうどんを啜った。そこそこ美味いし安かったのでまた行こうと思う。温室育ちの僕は温かい飯しか食えないのだ。

空腹の解消された僕はご機嫌なスキップでビートを刻みながら街を闊歩していたが、ふと何かに取り憑かれたように足を止める。

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(google mapストリートビューより)

結構大きめのビルに2方向から睨まれながら、ひっそりと佇んでいる年季の入った民家。人が住んでいるのかどうかは定かではないので直接写真を撮るのは辞めておいたが、それにしても得も言われぬ感想を胸に残してくれる。簡単に言えばなんかエモい。

何かの感想に「エモい」という言葉を使うことを忌避する学者・文豪諸氏をよく見かけるが、僕は「エモい」は上等である。そもそも言語化するのが面倒くさいから、という怠惰が理由の90%を占めていることはまあ認める他ないが、「エモいでしか表現できない」という点もある。

言葉なんてものは尽くせば尽くすほど本当のものから遠ざかってしまうことは明らかで、僕はさっき食べたナッツフォーユーの味すら満足に言葉で表現できない。美味かった、としか言えない。逆にどう言えばいいと言うのだろうか。ナッツの塩辛さがミルクの甘みと口溶けを際立たせていて、まるで樋口円香みたいな口溶けだ、とか言っておけば満足するのだろうか。僕は満足しないし普通にキモいので嫌だ。

話があまりにも脱線した。このエモい風景について考えてみる。

発展を続ける文明が高いところから見下ろしてくる中で、まんじりともせずに立ち続けている前時代の残り香。この風景がどこかファンタジーじみているように感じるのは、いつの間にか僕自身が、四角形で出来た角張った街を見慣れてしまっていたせいかも知れない。文明に必死に抗う、というヒロイックなドラマ性があるわけでもなく、ただただそこにあるだけ。

いつまでこの家がここにあり続けるのかは分からないが、そう遠くない将来に取りつぶされてしまったその時は、もう一度見に行ってみようと思う。どんなくだらない風景に変わってしまっているのかが楽しみである。

ということで現在18:07。今日起きたイベントの一覧に「ブログを書いた」も追加できたところで、もう休日を一秒たりとも取りこぼすことは出来ないので、手始めに積んだままの映画と本を消費するところから始めようと思いながら、僕はチューハイのプルタブを心地いい音を鳴らしながら引くのである。

では。

 

かしこ